ACC診療ハンドブック

解説編

HIV感染症に合併する眼病変

Last updated: 2016-06-01

HIV感染症に合併する眼病変(表1)

 HIV感染症に合併する眼病変を表1に示す。代表的疾患としてサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎があげられるが、最多病変は網膜微小血管障害に由来する白斑を主体としたHIV網膜症である。多くの病変はCD4陽性Tリンパ球数が200/µl未満で発症するため、この時期には眼科スクリーニング検査が必要となる1)

表1 : HIV 感染症に合併する眼病変

眼合併症の実際

 
1. CMV網膜炎

 

診断

 本邦においてCMV網膜炎の診断基準は明確に示されていないが、網膜全層の浮腫と壊死を主体とする網膜病変は特徴的な所見のため、臨床的な診断が十分に可能な疾患である2,3)。PCR検査の普及に伴い、ルーチン検査のごとく前房水や硝子体液を採取しreal-time PCR法でCMVゲノムを証明する傾向にあるが、不必要な検査は患者への負担や医療経済を考える面でも避けるべきで、他のヘルペス性ぶどう膜炎(急性網膜壊死・進行性網膜外層壊死)や悪性リンパ腫などとの鑑別が必要となる時に検査を行う。米国ではACTG criteriaにおけるCMV網膜炎の診断基準(表2)が示されているが4)、眼局所におけるPCR検査結果は項目に含まれていない。検査が容易な血液中のCMV抗原血症やPCR検査結果は網膜炎との関連は低いとされてきたが、CMV-DNA量≧10,086IU/mlでは94.1%の特異度でCMV網膜炎発症するとの報告もあり5) 、高値の場合は診断的価値が高い。

病型

① 周辺部顆粒型 
 網膜周辺部に出血をほとんど伴わず、顆粒状の滲出斑が扇形に集積する(図1)。小病変は全く炎症の形跡を残さず治癒することもあるが、通常は色素性変化を伴い網膜萎縮に至る。進行は比較的緩徐だが、治癒過程において病巣の中心は壊死に至り硝子体の牽引が存在すると多発性網膜裂孔を生じることがある。

② 後極部血管炎型 
 後極部の血管に沿って網膜出血と浮腫を伴う黄白色滲出斑を生じ、欧米では“砕けたチーズ&トマトケチャップ様”などの表現が用いられる(図2)。初期には綿花様白斑を生じ、時に網膜微小循環障害との鑑別が困難となることもある(図3)。進行は比較的早く周辺に向かい扇形に拡大することが多いが、後極部近傍に出現すると、黄斑浮腫や視神経への浸潤により急激な視力低下につながるため注意が必要である。

③ 樹氷状血管炎型 
 大血管を中心に網膜血管は樹氷状血管炎様に白鞘化する(図4)。CMV網膜炎に伴う免疫複合体に関連した炎症反応とされ、発症初期に他の病型の病変とともにみられることが多い。

 臨床上は分類困難な症例や病型が混在する症例も多く存在し、初期には1象限の1病型に限られていた病変も、進行に伴い多象限の多病型へと移行する。
 未治療で放置すると免疫能の改善に伴う自然治癒が期待できない限り網膜は壊死に至り、視神経浸潤や網膜剥離をきたして失明する。

表2 : 米国ACTG criteriaにおけるCMV網膜炎の診断

図1 :周辺部顆粒型

 

図2 :後極部血管炎型

 

図3-1

図3-2

図3:鑑別困難な網膜微小循環障害と初期のCMV網膜炎
(3-1:初診時、3-2:1週間後;文献2)より引用)

矢印① 微小循環障害は1週後には消失
矢印② CMV網膜炎は1週後には拡大

 

図4 :樹氷状血管炎型(文献2)より引用)

 

治療

 CMV網膜炎の治療は抗CMV療法と共に免疫能の改善が重要である。
① 抗CMV療法
 治療は全身治療と眼局所治療がある。CMV網膜炎は全身感染症の一つであるため全身治療が主となる。

・全身療法(表3)
 通常2~3週の導入療法後に維持療法を継続する。本邦ではガンシクロビル(デノシン®:点滴静注・内服)、ホスカルネット(ホスカビル®:点滴静注)に加え、バルガンシクロビル(バリキサ®:内服)が認可され、通院による長期の内服維持療法が可能となり、患者のquality of lifeは向上した。

・眼局所療法(表4)
 副作用や全身状態により全身投与が困難な場合に硝子体注射を行う。海外の正書によると難治症例に対し1000~2000µgのガンシクロビルを投与する方法が挙げられているが、人種による反応の違いか筆者らの経験から強い網膜毒性を示し低眼圧に陥ることもあるため、推奨はできない。術後眼内炎や網膜剥離には注意を要する。

② 免疫能の改善;多剤併用療法(ART)の導入
 CMV網膜炎は日和見感染症の一つであることから、ART導入による免疫能の長期的な改善によりのCMV網膜炎の寛解が得られるようになった。周辺部の小病変であればARTのみで抗CMV療法を施行せず、改善に至ることもある。一般に抗CMV療法治療中止の目安はCD4陽性Tリンパ球数が100/µlを超え、少なくとも3か月以上間をあけて2回以上CD4陽性Tリンパ球数の上昇がみられ、4か月以上悪化がないことが確認できるまで抗CMV療法は中止しないほうがよい。

表3 : 抗CMV 全身療法(文献2)より引用)

表4 : 抗CMV 眼局所療法(文献2)より引用)

 

2. 免疫回復ぶどう膜炎(immune recovery uveitis : IRU)

 ARTによりCD4陽性Tリンパ球数が上昇すると、既に鎮静化し活動性のないCMV網膜炎罹患眼に硝子体混濁が出現するとの報告が相次ぎ、IRUと命名された(図5)。その後、長期的に出現する続発病変もIRUに含まれるようになり、前眼部病変には、前部ぶどう膜炎、後嚢下白内障、虹彩癒着などが、後眼部病変には嚢胞様黄斑浮腫、網膜前膜、増殖硝子体網膜症、視神経乳頭新生血管などがIRUに属するようになった。
 IRUの発症機序は未だ明確に解明されていないが、後に内科領域で確立された免疫再構築症候群(Immune reconstitution syndrome : IRIS)と同様とされている。IRUの報告が相次いだ初期にはCMV網膜炎罹患眼に発症することが条件とされていたため、便宜上ART導入後の新規CMV網膜炎はIRUとは呼ばずIRISとしている。
 IRU発症の危険因子としてCMV網膜炎の病巣の大きさが関与しているため、大きな病巣をもつ患者にARTを導入する際は注意が必要である。
 治療は抗CMV療法が主体となる。重症例に対しステロイド療法が用いられるが、ステロイド眼局所投与が有効との報告がある半面、CMV網膜炎が再燃したとの報告もあり意見が分かれるところである。

図5 :免疫回復ぶどう膜炎(文献2)より引用)

 

3.その他の疾患

 

感染性疾患

ARTによりトキソプラズマなどの原虫や、ニューモシスチスカリニ、クリプトコッカスなどの真菌症などの日和見感染症の発症率は著明に低下した。反対に結核はHIVのウイルス量増加ともに加速度的に増加するため、粟粒結核を合併した場合結核性ぶどう膜炎の発症には注意を要する。また結核はIRISを発症しやすい疾患の一つであり、ART導入後も経過観察が必要である。結核や非結核性抗酸菌症の治療薬であるリファブチンは薬剤性ぶどう膜炎をきたすことがあるため、使用にあたっては眼科医との連携が重要となる。
 梅毒はHIVと重複感染が多く多彩な病型を呈するため、ぶどう膜炎がみられた際は梅毒の精査も必要となる。予後は比較的良好だが、診断が遅れると視力予後に影響を与えるため6)、早期診断が望まれる。本邦では梅毒性ぶどう膜炎の治療に経口合成ペニシリン剤が用いられることが多いが、眼梅毒の多くは神経梅毒を合併しているため、米国CDCの提唱するガイドラインでは神経梅毒に準じた治療を奨励している7)
 また、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスとの重複感染も多く、治療にPEG-インターフェロン&リバビリン療法が用いられることが多いため、インターフェロン網膜症や視神経炎の発症には注意を要する。

悪性腫瘍

 ART導入によりエイズ指標疾患であるカポジ肉腫や非ホジキンリンリンパ腫は減少したが、指標外疾患である肺癌やホジキンリンリンパ腫、肛門癌、肺癌、大腸癌、乳癌、前立腺癌などは増加している。ARTにより回復した免疫能も抗癌化学療法により再度低下を招き、CMV網膜炎などを併発することも少なくない。ART奏功中に脈絡膜転移性腫瘍から肺癌が発見されたケースなどもあるため、何らかの異常が見られた際には眼科検査を推奨したい。

ARTの副作用とその関連疾患

 ART導入後に一過性のアレルギー性結膜炎をきたすことがあるが、大抵の場合は点眼治療で軽快する。しかし、まれにスティーブンスジョンソン症候群のような重篤な症状を呈することもある。
 プロテアーゼ阻害剤によるリポジストロフィーは高脂血症に伴う動脈硬化や心血管系障害が大きな問題となっており、眼科的にも網膜中心静脈閉塞症などが散見されるようになってきた。
 血糖値上昇もまたプロテアーゼ阻害剤の副作用として挙げられ、糖尿病の新規発症や悪化が問題となっている。通常は血糖コントロールを行いながらARTを継続するが、糖尿病網膜症がある場合は特に悪化に注意をする必要がある。

文献

  1. Nishijima T, Yashiro S, Teruya K et al: Routine Eye Screening by an Ophthalmologist Is Clinically Useful for HIV- 1-Infected Patients with CD4 Count Less than 200 /μL  PLoS ONE 10 : 2015 
  2. 八代成子:ぶどう膜炎(内眼炎)の診断基準(考えかた)5.サイトメガロウイルス網膜炎:眼科49:1189-1198,2007
  3. 八代成子:ぶどう膜炎と類似疾患 7. HIV感染症に合併する眼病変関連眼病変:眼科58:73-79,2016
  4. Wohl DA, Kendall MA, Andersen J et al: Low rate of CMV end-organ disease in HIV-infected patients despite low CD4+ cell counts and CMV viremia: results of ACTG protocol A5030. HIV Clin Trials 10:143-52, 2009
  5. Mizushima D, Nishijima T, Yashiro S et al: Diagnostic Utility of Quantitative Plasma Cytomegalovirus DNA PCR for Cytomegalovirus End-Organ Diseases in Patients With HIV-1 Infection JAIDS 68:140-6, 2015
  6. Tsuboi M, Nishijima T, Yashiro S et al: Prognosis of ocular syphilis in patients infected with HIV in the antiretroviral therapy era. Sex Transm Infect. Apr 4. 052568. doi: 10: 2016
  7. Workowski KA, Bolan GA. Sexually transmitted diseases treatment guidelines, 2015. MMWR Recomm Rep 64:1-137,2016