ACC診療ハンドブック

解説編

小児のHIV感染症

Last updated: 2016-06-01

 日本では、12歳以下の小児が、母子感染以外の感染経路でHIVに感染する可能性は極めてまれである。この章では、主に母子感染によりHIVに感染した小児の診療を中心に解説する。

診断

 成人におけるHIV感染症の診断は、はじめにスクリーニング検査を行い、これが陽性の場合に確認検査としてウェスタンブロット法とPCR検査を行う。しかし、母子感染では、母体から児にHIV抗体が移行し、スクリーニング検査とウェスタンブロット法が偽陽性となるため、初めからPCR検査を行う。PCR検査には血漿中のHIV RNAを測定するRNA PCR法と、細胞中に組み込まれたDNAを検査するHIV-DNA PCR法がある。米国ガイドライン1)では、抗レトロウィルス薬(ART)の影響を受けない後者をより強く推奨しているが、日本国内ではDNA検査を行える施設が限られているため、HIV-RNA検査が行われる。
 HIV感染妊婦より出生した児の検査スケジュールを 表1に示す。生後2-3週、生後1-2ヶ月(AZT終了2-4週間後が望ましい)、生後4-6ヶ月にHIV-RNA量を測定し、2回以上陰性であれば、HIV母子感染はなかったと確定診断される。これらの検査で陽性が出た場合は、できるだけ速やかに再検し、2回連続で陽性ならば感染が確定する。

表1 HIV感染妊婦から出生した児のPCR検査時期(米DHHSガイドライン1)

治療開始時期 (表2)

 最近の成人ガイドラインでは原則的に全例治療であり、小児でもエビデンスレベルの違いはあるが全例治療が推奨されている。また従来、小児の免疫機能はCD4絶対数ではなくCD4%が指標として用いられてきたが、最近では絶対数を用いて判定するようになり、年齢別リスク判定も毎年のように変更されている。

表2 小児の抗HIV療法開始時期(米DHHSガイドライン2016年3月1日)2)

抗HIV療法

 小児においても成人と同様に3剤以上の多剤併用療法を行う。周産期に母体と児に感染予防薬としてAZT単剤投与が行われているケースでは、感染判明後すぐに多剤併用療法に切り替える。また、治療開始前には必ず耐性検査を提出し、その結果を参考にする。治療は成人同様、key drugとbackboneを組み合わせた3剤治療を行う。小児では長らく新薬の導入が遅れていたが、近年では小児用薬剤も増え、成人の推奨レジメンに近い組み合わせが推奨されるようになってきた。日本で治療を開始するときには、保険認可薬がないため、厚生労働省・エイズ治療薬研究班からの供給薬剤を使用する。研究班からの薬の入手方法については、下記ホームページを参照されたい。
(厚生労働省・エイズ治療薬研究班ホームページ:
 http://labo-med.tokyo-med.ac.jp/aidsdrugmhw/mokuji.htm

表3 小児の抗HIV療法(米DHHSガイドライン:2016年3月1日2)

日和見感染症予防薬

 小児HIV感染者は日和見感染のリスクが高いので、成人より積極的な一次予防(発症予防)が推奨されている。表4 には、代表的な疾患の一次予防方法と基準を示した。紙面の関係上、一次予防中止基準・再開基準、二次予防(再発予防)については割愛する。

表4 主な日和見感染症の一次予防薬と開始基準(米国国立衛生局ガイドライン20153) )

予防接種

 米国CDCのガイドライン4)では、ワクチン接種は様々な感染症の発症または重症化予防に有効であるため、HIV感染児に対する積極的な接種が勧められている。不活化ワクチンは原則すべて推奨され、特に肺炎球菌やHibワクチンは重症化予防の観点から強く推奨される。一方、生ワクチンについては、BCGが全例禁忌、水痘や麻疹・風疹・おたふくかぜはCD4>15%以上の児に推奨される。表5 には、日本の予防接種法施行令に明記されている定期接種ワクチンに関する情報とその他主なワクチンのHIV感染児における位置づけを表記した。実際に予防接種のスケジュールを決定する際には、専門家と相談しながら進める。

表5 HIV感染児と主な予防接種3)

 

文献

  1. Department of Health and Human Services (HHS) Panel on Treatment of HIV-Infected Pregnant Women and Prevention of Perinatal Transmission. Recommendations for Use of Antiretroviral Drugs in Pregnant HIV-1-Infected Women for Maternal Health and Interventions to Reduce Perinatal HIV Transmission in the United States. August 6, 2015, available at http://aidsinfo.nih.gov/guidelines
  2. Department of Health and Human Services (HHS) Panel on Antiretroviral Therapy and Medical Management of HIV-Infected Children. Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in Pediatric HIV Infection. March 1, 2016, available at http://aidsinfo.nih.gov/guidelines
  3. National Institutes of Health, Centers for Disease Control and Prevention, the HIV medicine association of the infectious diseases society of America, the Pediatric infectious diseases society, and the American academy of pediatrics. Guidelines for the Prevention and Treatment of Opportunistic Infections among HIV-Exposed and HIV-Infected Children. June 8, 2015, available at http://aidsinfo.nih.gov/guidelines