ACC診療ハンドブック

解説編

母子感染予防の方法

Last updated: 2016-06-01

 母子感染のタイミングは1)子宮内感染 2)分娩時感染 3)母乳感染、の3つである。それぞれに適切な対応策をとることで、母子感染は予防することができる。全く予防措置をとらない場合、児が母親からHIVに感染する可能性は約25%である1)

妊婦のHIV検査

 現在では日本の99%以上の施設で、妊産婦のHIVスクリーニング検査を行っている。しかし妊婦でのHIVスクリーニング検査は偽陽性が多いため、検査陽性でも安易にHIV感染と診断せず、すぐに確認検査(ウェスタンブロット法およびPCR法)を行う必要がある。確認検査で陽性が確認された場合は、ただちに専門施設に相談する。CD4数、HIV RNA量、日和見感染の有無、妊娠継続の意思、社会経済的背景などを検討して妊娠継続の可否を相談する。またパートナーの感染確認を必ず行う。

妊娠期間中

 まだ抗HIV治療を始めていない妊婦は、原則としてCD4数やHIV RNA量に関わらず全例で抗HIV治療(ART)を開始する。治療開始時期についてはガイドラインでできるだけ早期の治療開始が推奨されているが、妊娠判明から必要書類の手続き終了まで2ヶ月程度要することから、実際には妊娠14週前後が開始時期となることが多い。既に治療を開始している場合はレジメンを変更せずそのまま継続する。

表1 2015年8月DHHSガイドラインにおける治療薬の組み合わせ



 以前EFVは催奇形性のために器官形成期には絶対禁忌とされてきたが、2014年ガイドライン以降は第一選択となっている。しかし、催奇形性が完全に払拭されたとは言えないため、可能であれば使用しないほうが無難である。

周産期

妊婦へのARTにより、選択的帝王切開の必要性が低下している。しかし日本では産科医自体の減少やHIV感染妊婦の受け入れ病院の減少から、限られた人的資源のなかで感染・妊娠管理を行う都合上、ほぼ全例に37-38週を目途に予定帝王切開を行っている。AZT持続静注についても必要性が低下しており、妊婦のウィルス量が<1000 copies/mLである場合は不要とされている。AZT持続静注を行う場合、帝王切開の1時間前から2mg/kg/hrの点滴を1時間行い、その後分娩終了まで1mg/kg/hrで持続投与する。
 
 出生児に対する予防は、AZTシロップ4mg/kg(点滴投与の場合は3mg/kg)を1日2回、6週間投与する。母体ウィルスコントロール良好な場合は投与期間を4週間に短縮できる。また逆に、妊娠中に①AZT静注しか受けなかった妊婦(AI)②妊娠中もしくは分娩時にARTが投与されていない妊婦(AI)、③妊娠中にARTが投与されたがHIV RNA > 1000 copies/mLの妊婦(BIII)にはAZTシロップ×6週間+NVP×3回(8-12mgを①出生時、②①の48時間後、③②の96時間後)の2剤併用が推奨されている2)。また、未熟児に対するAZT投与量は下表の通り。

表2 未熟児に対するAZT投与量

授乳を行わない

 母乳には宿主細胞に組み込まれたHIVが存在し、ARTで除去することができないため、妊婦が治療を受けていても母乳感染が起こりうる。HIVに感染している母親には、母乳による児への感染リスクを十分に説明し、納得してもらったうえで、人工栄養を用いて児を育てる。

児の感染・非感染の確認

 出生児の感染確認はスクリーニング検査・ウェスタンブロットが偽陽性となるため、HIV RNA検査をもって行う。検査時期は生後48時間以内(可能なら)、生後14-21日、生後1,2ヶ月(AZT終了2-4週間後が望ましい)、生後3,4ヶ月である。生後2週以降の検査で2回以上HIV RNAが陰性であれば、非感染が確定される。以前は生後1歳半でHIV抗体陰性を確認することが確定診断とされていたが、最新のガイドラインでは必要ではない。一方、HIV RNA検査で陽性だった場合は、ただちに再検し感染の確認を行う。感染が確認された場合は、3剤併用療法を開始する。

文献

  1. Connor EM et al. Reduction of maternal-infant transmissionof human immunodeficiency virus type 1 with zidovudine treatment. N Eng J Med. 1994;331(18):1173-1180
  2. Department of Health and Human Services (HHS) Panel on Treatment of HIV-Infected Pregnant Women and Prevention of Perinatal Transmission.  Recommendations for Use of Antiretroviral Drugs in Pregnant HIV-1-Infected Women for Maternal Health and Interventions to Reduce Perinatal HIV Transmission in the United States.  August 6, 2015, available at http://aidsinfo.nih.gov/guidelines