ACC診療ハンドブック

解説編

ウイルス性肝炎重複症例への対応-HCV

Last updated: 2015-02-25

 日本のHIV感染者の19.2%がHCVに重複感染しており、その84.1%は血液由来製剤によるHIV感染者であったとする調査報告がある1)。慢性ウィルス性肝炎の合併はHIV感染者の予後不良因子であり、特に非加熱凝固因子製剤によりHIV・HCVに重複感染した血友病症例では、感染から約30年以上経過し肝硬変・肝細胞癌による死亡例が増加している。C型肝炎に伴う肝線維化の進行はHIV重複感染により加速し2)、またウィルス性肝炎合併例では抗HIV療法による肝障害の頻度が増加する3)ことが報告されている。

検査


1. スクリーニング

 HIV感染者では初診時にHCV抗体によるスクリーニングを全例で行う。HCV抗体陽性者ではHCV-RNA測定を追加する。HCV抗体が検出されない例も報告されており4)、機序不明の肝逸脱酵素上昇をみた場合には、HCV抗体陰性であってもHCV-RNAの測定を検討すべきである。

2. 慢性肝炎例の定期評価

 HCV-RNA陽性者では定期的な血液検査(血小板数、プロトロンビン時間、アルブミン、ビリルビン、AST、ALT、GGT、総コレステロール等)が必要である。HIV・HCV重複感染者ではALTが基準値内で推移していても肝線維化が進行する例があることが知られており5)、積極的に肝生検を検討する。Transient Elastography(ファイブロスキャン®)やAcoustic Radiation Force Impulse(ARFI)等、非侵襲的な肝線維化指標の有用性に関する知見も集積しつつある。
 臨床的に肝硬変と判断される例では、肝予備能に関する血液検査に加え、肝細胞癌および門脈圧亢進症に関するスクリーニング(腹部超音波検査・腹部造影CT・腫瘍マーカー検査・消化管内視鏡検査など)を定期的に行う必要がある。抗HIV薬としてかつて頻用されていたddIが門脈圧亢進症の原因となりうるほか、HIV・HCV重複感染者ではChild-Pughスコアが低い場合でも門脈圧亢進が進行している場合があり、注意が必要である。
 抗HCV療法によりHCV排除を達成できれば以後の発癌リスクは低下するが、依然残存する6)。特に肝線維化が進行している例では、HCV排除後も定期的な画像・血液検査による厳重な経過観察を継続する必要がある。
 HCV感染例のうち血清学的に感受性を有する場合(抗体陰性者)に対しては、HAV・HBVに対するワクチン接種が推奨されている。

治療

 ALT値によらず、すべてのHCV-RNA陽性者で抗HCV療法の適応を検討すべきである。CD4数と治療成績はある程度関連するため、抗HIV療法未導入でCD4数が低い重複感染例では,まず抗HIV療法を導入しCD4数を上昇させてからの抗HCV療法開始が望ましいとされている。抗HCV薬と抗HIV薬との相互作用の問題もあり、CD4数が高値の例においていずれの治療を優先するかに関しては議論がある。
2011年以降、HCVの増殖サイクルを直接の標的とした新規薬剤(Direct Acting Antiviral: DAA)の登場により、抗HCV療法は激変している。

1. インターフェロンを含む治療

  2013年までの抗HCV療法は、すべてインターフェロンを含む治療であった。HIV/HCV重複感染者におけるペグインターフェロンとリバビリンの併用療法の治療効果はHCV単独感染者より低く、また有害事象がより高度となる。ある報告7)によれば、SVR(治療によるHCV排除)率はgenotype 1で29%,genotype 2 or 3で62%であった。治療開始からHCV-RNA消失までの期間およびgenotypeに基づくアルゴリズムが提案されている8)。さらに2009年以降インターフェロン療法の効果予測因子としてIL-28B遺伝子一塩基多型など宿主側要因の重要性が知られるようになり9-12)、同意を得た上で治療前に検査を行うことが一般的となっている。
 インターフェロンはインフルエンザ様症状、血球減少、精神症状など様々な副作用を有する。また、脳出血の添付文書記載があることから、当施設では血友病症例に対するインターフェロン投与期間中は原則として凝固因子製剤の定期補充を行っている。インターフェロン投与中の白血球減少に伴いみかけのCD4数は減少するが、CD4%の低下や日和見疾患の増加はないとされており、投与中止により通常CD4数は回復する。
リバビリンは核酸アナログであり、NRTIとの併用で副作用が増強しうる。リバビリンとAZTの併用により貧血の危険が増大するため、併用は禁忌である。リバビリンとd-drug(ddI・d4T)との併用によりミトコンドリア障害・乳酸アシドーシスの危険性が増大するため、同様に併用すべきでない。ABCの併用は細胞内での代謝拮抗によりリバビリンの治療効果を減弱させる可能性があるとの報告があり13)、可能なら事前にABCを含まない組み合わせに変更する(NRTIとしてFTC/TDFを選択するなど)。
 2011年に初のDAAとしてHCV NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬が使用可能となり、インターフェロン・リバビリンとの併用によりgenotype 1例の治療成績が大幅に向上した14)。第1世代のHCVプロテアーゼ阻害薬テラプレビルは1日3回の内服が必要、かつ重篤な皮疹を含む有害事象が高頻度にみられるなど多くの問題点があったが、2013年には第2世代のHCVプロテアーゼ阻害薬としてシメプレビルが使用可能となり、有害事象および服薬の簡便性の観点で大きな進歩がみられている。HCVプロテアーゼ阻害薬はCYP3Aを介する薬物相互作用を有するため、併用期間中の抗HIV薬の選択には配慮が必要である15)

2. インターフェロンを含まない抗HCV療法

 2014年以降、作用機序の異なる新規DAA(NS5A阻害薬、核酸系/非核酸系NS5Bポリメラーゼ阻害薬)が続々と登場し、インターフェロンを含まない抗HCV療法(DAA±リバビリンによる経口多剤併用療法)が現実的な選択肢となりつつある16)。知見はHCV単独感染例のものが大部分であるが、HIV/HCV重複感染例における報告も徐々に増加しつつある17)
 DAAによる治療においては、genotypeやHCVの薬剤耐性変異の有無により選択すべき治療薬の組み合わせや期待される効果が異なるほか、治療失敗時には薬剤耐性HCVの選択により以後の治療が難しくなる可能性があることから、今後登場することが予想される新規DAAの特徴も見据え、肝臓専門医との緊密な連携のもと治療方針を決定する必要がある。既知・未知の有害事象および薬物相互作用に関しても慎重な経過観察が必要である。

3. 肝移植

  非代償性肝硬変に対する唯一の根治療法は肝移植である。良好にコントロールされているHIV感染症は固形臓器移植の禁忌ではなく、日本でも既に10例以上のHIV/HCV重複感染血友病例に対して肝移植(生体・脳死)が行われている18)。脳死肝移植に関しては、2013年よりHIV/HCV重複感染例を対象とする医学的緊急度の加点制度が設けられている。
 CYP3Aを介する薬物相互作用を有する抗HIV薬(プロテアーゼ阻害薬・一部の非核酸系逆転写酵素阻害薬など)を投与している例では、術後に投与される免疫抑制剤(カルシニューリン阻害薬など)の用量調節が必要となる。HCV-RNA陽性のC型肝硬変に対する肝移植では術後のC型肝炎再発は必発であり、急速な肝硬変への進展も報告されているため、時期を逃さず抗HCV療法を開始する必要がある。
肝臓は凝固第VIII因子・第IX因子の産生臓器であり、非血友病ドナーからの肝移植後に血友病は臨床的に治癒する。

急性C型肝炎について

 MSMにおける性感染症としての急性C型肝炎が報告されている19)。HIV感染者は定期的に肝逸脱酵素を測定しているため、急性C型肝炎を診断する機会に恵まれている。急性C型肝炎を発症した例の一部ではHCVが自然排除されるが、発症12週以降のHCV-RNA陰性化の頻度は低い。感染後早期のインターフェロン療法の成績は非常に良好と報告されており20)、医療費補助申請の面も含め早期に肝臓専門医と連携することが望ましい。

ガイドライン


  1. 平成16年度厚生労働省科学研究費補助金エイズ対策研究事業「HIV感染症に合併する肝疾患に関する研究」班 HIV・HCV重複感染時の診療ガイドライン 2005年3月
  2. 日本肝臓学会 肝炎診療ガイドラン作成委員会 編. C型肝炎治療ガイドライン(第3版) 2014年9月
  3. AASLD/IDSA/IAS-USA Guidelines for Recommendations for Testing, Managing, and Treating Hepatitis C. http://www.aasld.org/publications/practice-guidelines-0
  4. EASL Clinical Practice Guidelines: Management of hepatitis C virus infection. Journal of Hepatology 2014;60:392-420.
参考文献

  1. Koike K, et al. Prevalence of coinfection with human immunodeficiency virus and hepatitis C virus in Japan. Hepatol Res. 2007 Jan;37(1):2-5.
  2. Yotsuyanagi H, et al. Chronic hepatitis C in patients co-infected with human immunodeficiency virus in Japan: a retrospective multicenter analysis. Hepatology Research 2009; 39: 657-663.
  3. Sulkowski MS, Thomas DL, Chaisson RE, Moore RD. Hepatotoxicity associated with antiretroviral therapy in adults infected with human immunodeficiency virus and the role of hepatitis C or B virus infection. JAMA 2000;283:74-80.
  4. Hadlich E, et al. Hepatitis C virus (HCV) viremia in HIV-infected patients without HCV antibodies detectable by third-generation enzyme immunoassay. J Gastroenterol Hepatol 2007;22:1506-09.
  5. Martin-Carbonero L, et al. Liver fibrosis in patients with chronic hepatitis C and persistently normal liver enzymes: influence of HIV infection. J Viral Hepat. 2009 Nov;16(11):790-95.
  6. Merchante N, et al. HIV/hepatitis C virus-coinfected patients who achieved sustained virological response are still at risk of developing hepatocellular carcinoma. AIDS 2014;28:41-47.
  7. Torriani FJ, Rodriguez-Torres M, Rockstroh JK, Lissen E, Gonzalez-Garcia J, Lazzarin A, et al. Peginterferon Alfa-2a plus ribavirin for chronic hepatitis C virus infection in HIV-infected patients. N Engl J Med 2004;351:438-450.
  8. Soriano V, et al. Care of patients coinfected with HIV and hepatitis C virus: 2007 updated recommendations from the HCV-HIV International Panel. AIDS 2007 May 31;21(9):1073-89.
  9. Tanaka Y, et al. Genome-wide association of IL28B with response to pegylated interferon-alpha and ribavirin therapy for chronic hepatitis C. Nat Genet 2009 Oct;41(10):1105-9. Epub 2009 Sep 13.
  10. Suppiah V, et al. IL28B is associated with response to chronic hepatitis C interferon-alpha and ribavirin therapy. Nat Genet 2009 Oct;41(10):1100-4. Epub 2009 Sep 13.
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