ACC診療ハンドブック

日和見疾患の診断・治療

ノカルジア感染症

Last updated: 2015-02-25

病原体

 Nocaridia は、土壌や野菜などの植物、水などの日常的な環境に存在するグラム陽性好気性放線菌属である。日本では、N.farcinicaN.asteroides sensu strictN.brasilliensisN.nova の4菌種が多く、それぞれ全Nocarida 属の27%、24%、24%、11%を占めるとの報告がある。日本で最も頻度が高い N.farcinica は薬剤耐性が多く、病原性が高い。N.brasiliensis は皮膚軟部組織感染症を起こすことが多い。なお、その他の放線菌属としてActinomyces 属が挙るが、嫌気性であり、Kinyoun染色陰性の点で鑑別される。

臨床像

 感染経路は吸入や外傷創部からの直接侵入であり、現時点では動物-ヒト感染やヒト-ヒト感染の報告はない。しかし土ホコリ等の吸引、医療従事者の手指、病院内での工事などによる院内感染の報告はある。
Nocardia 感染症の病態には64%以上が背景に何らかの免疫抑制状態があるとされ、特に細胞性免疫不全が発症に関与しているとされる。ノカルジア感染症の頻度は、全HIV感染症の0.2-2%であり、CD4<200/µL(特に<100/µLで、平均35/µL)との報告がある。
 感染の臓器としては、皮膚、呼吸器、中枢神経が問題となることが多い。骨、心臓、関節、腎臓、副鼻腔、眼、脾臓、肝臓、副腎、膵臓、甲状腺などいずれの臓器にも感染を起こすことがあるが、菌血症はまれである。
 呼吸器感染症は、具体的には肺炎(図1)、肺膿瘍などがあげられ、N.asteroides complex(N.farcinicaN.asteroides sensu strictN.nova、N.transvalensis complex)によるものが90%とされる。症状は急性から慢性の経過で、発熱(74%)、咳嗽(77%)、喀痰(65%)、呼吸苦(65%)、胸痛(39%)の他に盗汗、体重減少、喀血などを認める。画像所見ではAlveolar pattern(70%)、空洞病変(35%)、胸水(35%)、単発・多発の結節・腫瘍pattern(27%)と多彩な画像所見を認める。特にHIV感染者では、より結節の数が増加する傾向にあり、空洞影を呈しやすい傾向にある。Nocardiaに対してはST合剤が第一選択薬となるがβラクタム薬にもある程度効果を示すので、診断には、抗菌薬投与前に検体採取を行う事が重要である。報告によればNocardia 呼吸器感染症の44%に気管支鏡検査などの侵襲的検査が必要であった。
 中枢神経感染症は、具体的には髄膜炎や脳膿瘍(図2)などがあげられ、呼吸器感染症と同様にN.asteroides complexによるものが最も頻度が多い。症状は、発熱、頭痛、痙攣、髄膜刺激症状、巣症状などであり、一般的には月単位から年単位で進行するとされるが、数年間無症状のこともある。病原微生物同定のために脳生検検査があげられるが、侵襲性が強いので、呼吸器感染症など他のfocusからNocardia が同定されている場合には不要とされるが、免疫不全を合併している場合は、進行が早いので、他疾患の併発が否定できない場合は、早期に検討されるべきである。
 皮膚軟部組織感染症は、皮膚からの直接浸入より発症するので、庭作業、農業、外傷、手術、動物咬傷などが危険因子となり、潰瘍、膿皮症、蜂窩織炎、膿瘍などを形成しうる。N.asteroides complexによるものが最も頻度が多いが抗菌薬の投与なしで大部分は自然寛解をするので、臨床上問題となる菌種はN.brasiliensis であり、特に熱帯地域で問題となり、足の指や下腿、背部に好発し疼痛を伴わない結節を特徴とする慢性皮膚感染症であるMycetomaの病原微生物となる。

 Nocardia は中枢神経病変を起こすことが多いので、何らかの中枢神経病変を疑う症状がある場合(免疫不全は問わず)、免疫不全者で皮膚もしくは呼吸器感染症がある場合には、頭部造影MRI検査を施行し、頭蓋内病変の除外が必要である。

図1:肺Nocardia
S7に浸潤影を認める(胸部造影CT検査)

図2:Nocardiaによる脳病変
左前頭葉に直径5mm程度の病変を認める
(左:FLAIR、右:ガドリウム造影)

診断

 診断において重要な検査は、採取した検体のグラム染色、Kinyoun染色、16S-rRNAを使用した遺伝子検査である。グラム染色では、グラム陽性に染色され、分枝したフィラメント状の多形性もしくは数珠状に呈し、太さは0.5~1.2µmである。Kinyoun染色は、Ziehl-Neelsen染色の変法(脱色がZiehl-Neelsen染色が3%塩酸で行うのに対し、Kinyoun染色では0.5-1%硫酸を用いる)であり、細胞壁に含まれるmycolic acidを反映し陽性となる(写真1)。菌名同定および抗菌薬感受性検査のためには、専門機関での検査が必要である。 培養期間は、5日-21日(平均は2-14日、典型例は3-5日)とされ、血液培養の場合は2-4週間必要とされる。

写真1:染色像
検体:縦隔リンパ節、1000倍(左グラム染色、右Kinyoun染色)


治療

 治療の原則は、菌種により抗菌薬の感受性が異なるので検体を専門機関に送り、菌名と感受性の同定を行うことである。治療期間は初期治療(静注、免疫不全者は最低6週間)と維持療法(中枢神経病変を伴わない免疫正常者は初期治療期間と合わせて最低6ヶ月、免疫不全者(focusは限定されない)および中枢神経病変を伴う免疫正常者は最低12ヶ月)に分かれる。また脳膿瘍の場合、2週間の抗菌薬の治療で全身状態の増悪や膿瘍の増大を認める場合、4週間の治療で脳膿瘍のサイズが縮小しない場合は外科的治療も考慮される。抗菌薬はfocusに限らずST合剤が第一選択薬となり、その他にAMK、カルバペネム、第3世代セフェムを適宜併用もしくは代替して使用する。維持療法の内服剤としてはST合剤、MINO、AMPC/CVAなどを使用する。菌種別の抗菌薬感受性(表1)および各病型の推奨治療(表2)を示した。
 Nocardiaに対するCLSIの判定基準に基づく感受性結果が耐性であることが、必ずしも治療失敗と関連していないという報告があり、実際に感受性試験上はST合剤耐性にも関わらず、ST合剤治療により治療成功している例の報告があり、Nocardia感染症の治療薬の選択においては、感受性結果のみを判断根拠に選択を行うのではなく、臨床経過を十分に考慮した抗菌薬選択を行うことが重要である。

 

表1 抗菌薬感受性率(%)

表2 抗菌薬レジメン