ACC診療ハンドブック

日和見疾患の診断・治療

播種性MAC感染症

Last updated: 2015-02-25

疫学

 播種性MAC感染症は非結核性抗酸菌の中のM. avium もしくはM. intracellulare に起因する感染症であり、HIV患者では播種性MAC症の95%以上はM. avium によっておこる。MACは土を含む環境中のどこにでも存在する菌で、人体への侵入門戸は気道もしくは消化管と考えられており、ヒトからヒトへの感染は否定的とされている。エイズ患者に抗HIV治療やMAC症の予防投与を行わなければ、20-40%が播種性MAC症を発症する。播種性MAC症は通常CD4<50/µLのHIV患者に発症し、治療前のHIVウイルス量>100,000 copies/mL、日和見感染の既往、抗HIV治療でのCD4の大幅な改善、気道もしくは消化管のMACの定着はMAC症発症のリスク因子である。

症状

 MACには潜伏感染はなく、MAC発症は最近のMAC感染を示唆する。播種性MAC症の診断に対するMACの気道もしくは腸管の定着は感度約20%と低いが、陽性的中率は約60%と報告されている。播種性MAC症の症状は発熱、寝汗、倦怠感、腹痛、下痢、体重減少など非特異的である。症状が徐々に出てきたのち、数週間で血液培養が陽性となることが多い。免疫再構築症候群(IRIS)によるMAC症では発熱と局所リンパ節腫脹から始まって徐々に全身性の症状を来す。結核のIRISもしくは初期悪化と鑑別が難しい場合もある。

検査

 血液検査ではHIVの病期と比してより高度の貧血やALP、LDHの上昇が特徴であり、肝脾腫、リンパ節腫脹もよく見られる所見である。血液もしくはリンパ節・骨髄など通常無菌である体液の培養からMACが同定されると確定診断となる。便や生検部位の抗酸菌塗抹染色や培養、また腹部CTでの腹腔内リンパ節腫脹も診断の参考となる。アイソレーターを用いて液体培地にて培養すると診断確度が増す。繰り返す血培にてもMACが同定されず、リンパ腫などとの鑑別がつかない場合は生検も念頭に置く。IRISによって発症した播種性MAC症は非常に治療に難渋することが多いので、抗HIV療法開始前にMAC合併の有無を明らかにすることは先々の治療の成否を握るといっても過言ではない。

治療

 クラリスロマイシン(CAM)800-1000mg/日(もしくはアジスロマイシン(AZM)600mg/日)、エタンブトール15mg/kg/日の2剤治療を基本として、状況に応じてリファブチン、シプロフロキサシンさらにはアミカシンの点滴を加えた5剤で強力に治療する。クラリスロマイシン・リファブチンを使用する際は、抗HIV薬との相互作用を考慮する(別項参照)。治療は少なくとも12ヶ月は継続する。抗HIV療法中にMAC症が診断された場合は、抗HIV療法は抗MAC薬との相互作用を考慮した上で継続することが望ましい。抗HIV療法導入前にMAC症が診断された場合は、激烈なIRISを経験することが多く、薬剤の副作用や相互作用も問題となるため当科では抗MAC治療の開始後2ヶ月ほど抗HIV療法の開始を待つことが多い。病勢が抑えられない場合はNSAIDsやステロイドの併用が必要となるが、それでも抑えられなければやむを得ず抗HIV療法を中止することもある。CAM耐性(MIC≥32µg/mL)となった場合には、臨床的に無効となる。AZMも交叉耐性となる。治療が長期に渡り、かつ臨床的に耐性が疑われる場合には感受性検査を行うべきである。

治療効果判定・難治例

 治療効果の判定には解熱、痛みなど他の症状の改善、血液培養の陰性化などの指標が有用である。経過良好であれば2-4週で解熱し、抗酸菌量も減少するが、播種性MAC症は治療に難渋することが多く、数年がかりの治療を要することもざらである。抗HIV薬を含む多くの薬を併用することになるため、各薬剤による肝機能障害、血球減少、皮疹、薬剤熱などの可能性にも常に留意する必要がある。

予防

 一次予防はCD4<50/µLで活動性のMAC症が否定できる患者に対して必要である。AZM1200mgを週一回もしくはCAM800-1000mg連日の投与が推奨されるが、簡便性と薬剤相互作用の少なさからAZMが好まれることが多い。一次予防はCD4>100/µLが3ヶ月以上続けば終了できる。二次予防についての規定はなく、初回治療を12ヶ月以上完遂して症状・所見が消失しており、CD4>100/µLが6ヶ月以上持続していれば治療を中止してもよいとされている。しかし、CD4が100/µLを再度下回った場合は二次予防を開始する必要があり、その際は治療と同様のレジメンで行う。

 一次予防および二次予防の具体的方法については、Part1「日和見感染の一次予防および二次予防」も参照のこと。

参考文献

  1. Am J Med Sci 1997 Jun;313(6)
  2. J Infect Dis 1994 Feb;169(2)
  3. N Engl J Med 1996 Aug 8;335(6)
  4. MMWR Recomm Rep. 2009 Apr 10;58(RR-4)

 

播種性MAC 症による重度の下痢を来した患者の下部消化管内視鏡写真。薄い白色の膜に覆われ、血管透過性が低下している(国立国際医療研究センター永田尚義先生のご厚意 による)。

 

同患者のFDG-PET 画像。腸管に強い集積が見られる

 

重度の下痢を来した播種性MAC 症患者の腸粘膜生検。チール・ニールセン染色で染まる大量の抗酸菌が泡沫細胞の内部に見られる。

 

播種性MAC 症に起因する免疫再構築症候群により頚部リンパ節の腫脹を来した症例