ACC診療ハンドブック

日和見疾患の診断・治療

進行性多巣性白質脳症(PML)

Last updated: 2015-02-25

 本疾患の原因ウイルスであるJC virusは多くは小児期に不顕性感染し(成人の70%程度)、腎細胞やBリンパ球に潜伏感染している。HIV感染による免疫不全を契機に再活性化するとウイルスは中枢神経へ移行し髄鞘を形成する乏突起膠細胞(Oligodendrocyte)に感染、脱髄を生じ発症する。健常人に発症することは非常に稀である。

臨床像

 亜急性に進行する様々な神経症状、四肢の脱力(運動失調・不全片麻痺・不全単麻痺)視覚障害(半盲・複視・動眼神経麻痺)などが初発となり、意識障害・認知障害・けいれん・歩行失行など多種多様な神経症状を呈す。中枢神経のいずれの白質にも病変は起こりうるが、中でも皮質下領域は好発部位であり、大脳皮質の不全症状として失語・失調・視覚性失認・記憶障害も起こしうる。80%の症例で何らかの巣症状を認める。PML自体では髄膜刺激症状や発熱などの炎症症状を認めることは少ない。本疾患も他の日和見疾患と同様ART開始後の免疫再構築症候群により、発症・増悪することがある。

診断

 臨床症状と下記の検査所見より臨床診断する。
【髄液所見】炎症細胞は認めないか、あっても少数で概ね25/µL 以下で、通常は単核球優位となる。髄液圧正常。髄液タンパクは正常もしくは軽度上昇。髄液IgGの上昇を伴うことあり。JCVのPCRによる同定は感度80%程度(74%~92%)で、特異度は95%程度(92%~96%)である。病気の進行に伴ってPCRでJC virus DNAを検出できる確率が高くなる。このため初回検査が陰性の場合、間隔をおいて再度検査すると陽性となることがある。また臨床症状と画像所見を欠き、JCVのPCRのみ陽性であるPML症例はHIV陽性患者ではまれである。
【発症時CD4数】ほとんどの症例がCD4数100/µL 未満の重度免疫不全状態で発症するが、CD4>200/µL で発症した症例報告もある。ART後にCD4数が回復している症例で免疫再構築症候群として発症する場合があるが、この場合でも典型的にはART開始前のCD4数は100/µL 未満であり、発症前の潜在性のJCV活性化が示唆されている。
【画像所見】MRI:T2強調像、FLAIRが病変の描出に優れている。病変は白質に限局して、多くは病変に左右差があり、T1強調像で低信号、T2強調像、およびFLAIRで高信号、造影剤による増強効果(-)や、浮腫(-)、mass effectを伴わないのが典型的である。ただし、免疫再構築症候群として発症した場合には、造影剤による増強効果や浮腫などを認める場合がある。鑑別としては、同じくT2強調像で高信号で造影増強効果のないエイズ脳症が重要であるが、多くはT1強調像で等信号であり病変が左右対称性である点で異なる。CTでは白質に増強されない低濃度域として描出されるがMRIに比し感度は劣る。脳血液関門は正常なため造影剤にて増強されないことがほとんどであるが、ごく稀に辺縁部が増強されることもある。
【脳生検】近年はMRIにより診断がつくためほとんど行われていないが、他の疾患と鑑別がつかない場合に考慮される。病理組織像では中枢神経全般で種々の程度の脱髄性変化が多発性に認められる。星状細胞は巨大化しクロマチンに富み核は変形し分裂像も認められる。OligodendrocyteはJCウイルスのパーティクルを含んだ封入体をもつ高濃度の核をもち巨大化している。

治療

 効果が証明されている治療法は確立されていない。シタラビン(cytaravine)やシドフォビル(cidofovir)は効果なく、ART導入による免疫能の回復のみが疾患の経過に好影響を及ぼすと考えられるが、ART開始後の免疫再構築症候群にて悪化する例もあり、治療に対する反応には個体差が大きい。免疫再構築症候群によるPMLの悪化に対しステロイドの投与が試みられているがその効果は確立されていない。マラリア治療薬であるメフロキンが抗JCV活性を持つことがin vitro の検討で示され、臨床的有用性が期待されたが、2013年に報告されたRCTの結果では有効性は証明されなかった2)
 ARTによる免疫機能の回復により、生命予後は比較的良好となっているが、上述のようにPMLに対する特異的治療が存在しないために、ART導入後に免疫再構築症候群の要素も合わせ、症状が増悪することが多く、最終的に運動機能障害や精神障害を残す場合が少なくない。植物状態に近い状態で長期間生存する症例も見られるようになっている。

文献
  1. Cinque P, et al. Progressive multifocal leukoencephalopathy in HIV-1 infection. Lancet Infect Dis. 9:625-36, 2009
  2. Clifford DB、et al. A study of mefloquine treatment for progressive multifocal leukoencephalopathy: results and exploration of predictors of PML outcomes. J Neurovirol.
    9:351-8., 2013

 

頭部MRI T2強調画像

30歳代 男性 左上腕麻痺主訴 CD4:42/µL

 

免疫再構築によるPML悪化の一例

PML診断時

ART 2週(CD4 18/mL)

ART6週

ART 12週(CD4 53/mL)