ACC診療ハンドブック

日和見疾患の診断・治療

トキソプラズマ脳炎
Toxoplasma gondii  encephalitis, TE)

Last updated: 2016-04-28

 原虫類のToxoplasma gondii が病因である。T. gondii はネコ科の動物を終宿主とし、ヒトやブタ、ネズミ、トリなどを中間宿主とする。終宿主から糞便中に排出されたoocystを中間宿主が経口摂取すると、脳と筋肉にcystを形成し、潜伏感染する。その臓器を肉食の終宿主が食べることで生活環が完成する。ヒトではoocystが付着した食物やcystを含んだ加熱不十分な中間宿主の肉を摂取することで成立する。
 HIV感染者でのTEは、細胞性免疫の低下により脳内に潜伏感染していたcystが再活性化することで発症する。主にCD4が100 cells/µL以下の症例で発症し、免疫再構築症候群として発症・増悪することがある。

臨床症状

 数日から数週の経過で進行する、発熱や頭痛、意識障害、痙攣、片麻痺等の神経巣症状が主な症状である。

診断

 経過と画像所見からTEが疑われる場合、診断的治療を開始する。TEの臨床症状は1週間、画像所見は2週間程度で改善傾向となる。改善に乏しい場合は脳原発悪性リンパ腫などの可能性も考慮し、脳生検を検討する。
 画像所見:CTやMRI所見は、典型的にはリング状造影効果を有する多発結節陰影であり、広範な脳浮腫を伴う。脳内全域に発症し、大脳基底核と皮髄境界領域に好発する。画像所見による脳原発悪性リンパ腫との鑑別は困難であることが多い。Tl-SPECTやFDG-PETではトキソプラズマ脳症の病巣では集積が低下することが多く鑑別に有用との報告もあるが、実際には判断が難しいことが多い。
 血清抗体:トキソプラズマIgG抗体はほぼ全例で陽性とされているが、日本人ではその感度は60%程度と報告されている。
 髄液検査(PCR法):特異度はほぼ100%と高いが、感度は低い(30-70%)。

治療

以下のいずれかを最短6週間行う。
1) ピリメサミン200mg 初回投与後、体重で用量調整。
 ・体重60kg未満:ピリメサミン 50mg/日 + スルファジアジン 1000mg ×4/日 + ロイコボリン 10-25mg/日
 ・体重60kg以上:ピリメサミン 75mg/日 + スルファジアジン 1500mg ×4/日 + ロイコボリン 10-25mg/日
2) 上記のスルファジアジンの代わりにクリンダマイシンを用いる
  ピリメサミン + ロイコボリン + クリンダマイシン 600mg ×4/日
3) ST合剤(トリメトプリム換算で5mg/kg ×2/日)
*ピリメサミンとスルファジアジンはエイズ治療薬研究班(http://labo-med.tokyo-med.ac.jp/aidsdrugmhw/text/1aids/a/1_a.htm)より入手可能。

二次予防(急性期治療後の再発予防)

 急性期治療成功後、以下の二次予防を行う。
 ・ピリメサミン 25-50mg/日 + スルファジアジン 500-1000mg ×4/日 + ロイコボリン 10-25mg/日
 ・ピリメサミン 25-50mg/日 + クリンダマイシン 600mg×3/日 + ロイコボリン 10-25mg/日
 ・ST合剤 4錠/日
 ・アトバコン 4包/日

 ART導入後、CD4: 200 cells/µL以上を6ヶ月間維持し、TEの病状が安定している場合、二次予防を終了できる。


一次予防(未発症者の発症予防)

 トキソプラズマIgG抗体陽性でCD4: 100 cells/µL以下の患者には、ST合剤2錠/日による一次予防(発症予防)を開始する。ART開始後、CD4: 200 cells/µL以上を3ヶ月間維持した場合に一次予防を終了できるが、CD4: 100-200 cells/µL以下に減少した際には一次予防を再開する。


トキソプラズマ脳炎のMRI所見
左上:T1WI(Gd造影)、右上:T2WI、左下:FLAIR、右下:DWI