ACC診療ハンドブック

日和見疾患の診断・治療

サイトメガロウイルス感染症(CMV感染症)

Last updated: 2016-06-01

 我が国においては、近年若年者での抗体保有率の低下(20-30代で60-70%程度)が指摘されているが、性交渉での伝播により男性同性愛者でのCMV抗体保有率は依然として高く、異なった血清型による反復感染を反映してCMV-IgMの陽性率も高い事が知られている。感染後、通常不顕性感染となり、その後潜伏感染状態となるが、HIV等により免疫不全状態(CD4<50/µL)となると内因性に再活性化し種々の病態を呈する。 HIV感染者におけるCMV感染症では網膜炎がもっとも多いが、消化器病変(食道潰瘍・腸炎) 、神経病変(髄膜脳炎・根神経炎)、副腎炎 などを起こす。肺炎も起こりうるが、他の免疫不全と比べてその頻度は著しく低いと考えられている。網膜炎については他項(part3.HIV感染症に合併する眼病変)を参照されたい。ここでは網膜炎以外のCMV病変について述べる。

消化器病変(食道潰瘍・腸炎)

 食道潰瘍では嚥下痛、胸痛など、腸炎では下血、腹痛を初発症状とする。特にアメーバ性腸炎を発症を契機にCMVが二次的に活性化してCMV腸炎を発症し、大量下血からショック状態となる症例に少なからず遭遇する。この場合にはエンピリックにアメーバ性腸炎とCMV腸炎の治療を同時に行うことも考慮する。

診断:消化管内視鏡にて多発性の不整形潰瘍病変がみられる。ただし、重度免疫不全合併例ではカンジダ食道炎が併発している場合が多く、白苔により食道粘膜病変の観察が不十分となりうるためCMV食道炎を積極的に疑う場合には、FLCZによるエンピリック治療を行ってのちに内視鏡を実施することが有用である。診断は潰瘍部の生検を行い、病理学的にフクロウの目と呼ばれる特徴的な核内封入体を証明することによって行われる。

治療:
治療期間:3-6週間、または症状消失まで
 第一選択薬:ガンシクロビル点滴5mg/kg12時間毎、内服可能になればバルガンシクロビル1800mg分2/日経口へスイッチ可。
 第二選択薬:フォスカルネット点滴90mg/kg12時間毎(腸炎では保険適用なし)
軽症・内服可能な場合は、バルガンシクロビル内服での治療開始も選択肢となる。軽症例で、ARTを早期に開始または最適化する予定であれば、抗CMV治療を行わない専門家もいる。

2次予防:再発症例でなければ、CMV網膜炎と異なり推奨されない。

髄膜脳炎(脳室周囲炎・脳炎)

 認知症、知能低下、意識障害、神経根脊髄症状など多彩な症状を呈しうる。HIV脳症と異なり、適切なCMV治療を行った場合でも、一部非可逆な障害を残す症例が多く、早期に疑って治療を開始することが重要である。
診断:MRIやCTで脳室周囲炎を示唆する陰影を認める(写真1)のが典型的であり、診断を積極的に疑うが、自験例では結節影を呈する場合もあり(写真2)、この場合には画像上、悪性リンパ腫やトキソプラスマ脳炎との鑑別は困難である。診断は、合致する神経症状かつ髄液検査で髄液中のCMVの存在を確認することに基づき(通常、定量CMV DNA PCR法が用いられる。保険適用外)、髄液CMV PCR検査は非特異的な血中CMV PCR検査と異なり診断的価値が高い。
治療:
 治療期間:確固たるエビデンスは存在しない。髄液CMV量をモニタリングしながら、治療薬剤の選択及び治療期間を検討する。通常、髄液CMV PCRが陰性となるまで治療を継続する。
 選択薬:ガンシクロビル、フォスカルネットによる治療を行うが、いずれも髄液移行性は良好ではなく、また症例によりそれぞれの薬剤の移行性の個体差も大きい。多くの場合は抗ウイルス薬だけでの髄液CMVのコントロールは困難であり、ARTによる免疫機能の回復が重要になる。DHHSの日和見感染症ガイドラインではエキスパートオピニオンとしてガンシクロビル・フォスカルネットの併用が記載されているが、当施設では、症例によっては骨髄抑制等の副作用への懸念から、単剤で治療を行うこともある。

 2次予防:エビデンスはなく2次予防の推奨は明記されていないが、CMV網膜炎に準じて行うことが多い。

図1 サイトメガロウイルス核内封入体

写真1 CMV脳室周囲炎 頭部MRI画像
FLARE画像で脳室周囲に高信号の病変が認められる

 

写真2 CMV 脳炎 頭部MRI像
T1 強調造影で左小脳半球後部にリング状に増強される病変が複数みられる。