ACC診療ハンドブック

日和見疾患の診断・治療

播種性クリプトコックス症

Last updated: 2018-03-18

病原体

Cryptococcus neoformans は自然界に広く存在し、とりわけ窒素を含む鳥の糞で汚染される場所の土壌で増殖しやすい。乾燥したCryptococcus neoformans は微粒子となって空中に広がり、経気道感染を起こす。

臨床像

 Cryptococcus neoformans は経気道的にまず肺に感染すると考えられている。しかし、細胞性免疫不全を背景に臨床的な肺病変を形成せずに、そのまま播種性病変(脳髄膜炎)へと進展することが多い。播種性病変は脳髄膜炎が最も多いが、血流を介して皮膚、骨、消化管、眼、前立腺などにも起こりうる。特に皮膚病変の頻度が高いとされている。
 脳髄膜炎例でも、免疫応答の弱さから、症状は発熱、全身倦怠感、頭痛など非特異的なことが多く、進行例でなければ髄膜刺激症状は呈さない。免疫不全症例(多くはCD4<100/µLで発症)、特に外国国籍の患者でfocus 不明の発熱がみられる場合には、積極的に本症を疑って検査を勧めることが診断の鍵となる。脳髄膜炎で意識障害まで進展した場合の生命予後は不良であるため、救命のために早期診断、早期治療開始が重要である。

診断

 免疫不全例が原因不明の発熱や頭痛を訴える場合には、本症を積極的に疑い血清クリプトコックス抗原(GXM抗原)検査を行う。本検査の脳髄膜炎における感度は非常に高いため、陰性の場合には脳髄膜炎の可能性をほぼ除外できる。
 血清GXM抗原が陽性の場合には、脳髄膜炎を除外するために腰椎穿刺を実施する。免疫不全を反映して、髄液一般検査では細胞数や糖、蛋白などの異常は軽微であることが多く、正常であることすらあるが、髄液圧は上昇していることが普通である。墨汁法による髄液の直接検鏡(写真1)、髄液・血清のGXM抗原、髄液および血液の培養検査を提出する。他の臓器病変では、検体を採取し病理組織および培養でクリプトコックスを証明する。ちなみに、GXM抗原は血清で高値であっても非脳髄膜炎例ではCSFのGXM抗原は通常陰性である。従って、髄液GXM抗原が陽性である場合には脳髄膜炎として治療することが勧められる。


写真1

治療

抗菌治療
 治療は(1)2週間以上の導入治療の後に、(2)8週間以上の地固め治療を行い、その後に(3)維持治療に切り替える。Liposomal amphotericin B(L-AMB)とFlucytosine(5-FC)の併用療法が最も強力な髄液の菌陰性化作用を持っており、脳髄膜炎の導入治療の第一選択である。L-AMBの有害事象としての電解質異常や腎機能障害に注意し、十分な補液や電解質の補正を行う必要がある。5-FC は腎機能により用量調整の必要がある点にも注意が必要である。
 導入療法による髄液の早期菌陰性化は、生命予後とも関連する抗HIV 治療(ART)導入後の免疫再構築症候群のリスクを減少させる。したがって副作用等によりL-AMBあるいは5-FCが使用できない場合でも、代替薬を用いた併用治療を行うことが望ましい。
 地固め治療および維持治療の第一選択薬はFluconazol(FLCZ)である。Itraconazole は髄液にほとんど移行せず、特に維持治療においてFLCZと比較した場合に有意に再発率が高いことが分かっており基本的に推奨されない。エビデンスはほとんどないが、FLCZが使用できない場合の代替薬としては、Voriconazoleが優れた髄液移行性と強い抗菌活性を有している。

(1)導入治療(2週間以上かつ髄液培養陰性化まで)
 ・L-AMB 3-4mg/kg 1日1回点滴+5-FC 25mg/kg 1日4回経口
(上記が副作用で継続出来ないとき)
 ・L-AMB 3-4mg/kg 1日1回点滴+FLCZ 800mg 1日1回点滴
 ・FLCZ 800mg 1日1回点滴+5FC 25mg/kg 1日4回経口
 ・FLCZ 1200mg 1日1回点滴
 *フルシトシンは腎機能障害例では用量調整が必要。


(2)地固め治療(8週間以上)
 FLCZ 400mg/日1日1回経口または点滴

(3)維持治療(維持治療終了基準を満たすまで)
  FLCZ 200mg/回1 日1日経口投与
 *維持治療中止基準(以下をすべて満たす)
 1) 1年以上の維持治療が終了
 2) 症状の軽快かつ安定
 3) ARTによりHIV-RNA量が抑制され、かつCD4≧100/µLが3ヶ月以上持続
(髄液圧の管理)
導入治療期の髄液圧の管理は生命予後と関連しているため、抗菌治療と並んで重要である。髄液圧高値(≧25 cmH2O)では髄液除去による髄液圧のコントロールが推奨されている。
初圧が20 cm以下になるまでか、あるいは初圧が極めて高い場合には、初圧の半分程度になるまで髄液を除去する(20-30 mL程度) 。髄液圧および症状が2日連続で軽快・安定するまで連日腰椎穿刺を繰り返す。

ARTの導入時期

 適切なART導入時期についてはまだコンセンサスが得られていない。ただし、早すぎるART導入は激烈な免疫再構築症候群を起こし、生命予後を悪化させるとする複数のRCTが存在している。
 現時点までに得られている知見からは、少なくとも、播種性クリプトコックス症に対する治療が奏効し、各種臨床症状が改善するまではARTの導入は待つべきであると思われる。多くの専門家は、2週間の導入治療後に髄液検査を行い、少なくとも髄液圧が正常化しており、かつ髄液培養が陰性であることを確認後にART導入時期を検討する事が望ましく、恐らくは治療開始後10週程度まではART導入を待てると考えている。具体的導入時期は疾患の重症度、髄液中の菌量、免疫不全の程度、他の合併日和見疾患の有無などによって患者毎に決定されることが望ましい。