ACC診療ハンドブック

日和見疾患の診断・治療

ニューモシスチス肺炎(PCP)

Last updated: 2018-03-22

病原体

 ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumounia, 以下PCP)は、Pneumocystis jiroveciiP. jirovecii)を病原体として、細胞性免疫が高度に障害された宿主で発症する日和見疾患である。抗HIV治療(ART)が可能ななった現在でも、HIV患者における最も頻度の高いエイズ指標疾患である。

臨床像

 非HIV症例におけるPCPとは異なり、HIV合併PCPでは免疫不全による炎症反応の弱さを反映して、膿性痰の喀出はなく、咳はあっても軽度で、肺野の聴診所見も重症例ではcrackleが聴取できるが多くは正常である。亜急性に進行するため、低酸素の割に呼吸苦をあまり訴えない。それでも発症時のSpO2は95%程度に低下しており、5分低度の歩行負荷で90%程度まで低下するのを確認できるのが典型的である。
 PCP発症前の数ヶ月で10kg程度の体重減少が稀ではなく、多くの症例でるいそうを認める。口腔カンジダも高率に合併していることが多い。

診断

 画像所見では、両側びまん性のスリガラス様陰影を認める(写真1)。病変内に散在する嚢胞性変化は頻度は高くないが、PCPを疑う特徴的な所見である(写真2)。画像所見で、単発性嚢胞性病変(写真3、肺クリプトコックス症合併)、病変が非対称な場合(写真4、ノカルジア肺炎合併)など、PCPに非典型的な所見が見られる場合には、他の合併疾患の存在を疑い、気管支内視鏡検査による侵襲的検査を積極的に検討すべきである。
 血液検査ではAIDS発症に関連した骨髄抑制により汎血球減少がしばしば見られる。リンパ球の割合が10%以下で、LDHの上昇を認め、広範囲な肺病変にも関わらずCRPは1mg/dL程度までの上昇にとどまり、5mg/dLを超えるのは重症例のみである。血清診断ではβ-Dグルカンの感度が高くPCPのほぼ全例で陽性であり1)P. jiroveciiのcolonizationでも陽性となるため、本検査が陰性の場合にはPCPをほぼ除外できる(注)
 臨床像および画像所見、検査所見が本症に典型的であれば、臨床的にPCPと診断して良い。ただし、当科ではAIDS発症期における重複感染の可能性を考慮し、喀痰抗酸菌塗沫3回と血清クリプトコックス抗原を提出し、肺結核が完全に否定できるまでは個室入院下で(陰圧ではない)N95マスク対応としている。
 気管支内視鏡検査はPCPの確定診断と合併疾患の除外を目的に実施する。胸部CT検査で洗浄部位を選定し(他の部位と陰影の性状の異なる部位を選択する)40-60mlの生理食塩水で気管支洗浄を行う。洗浄液のサイトスピン標本をDiff-Quik染色(写真5)またはGrocott染色を行い、菌体が証明できれば診断が確定できる。他疾患合併の除外のため、細菌培養、抗酸菌塗抹・培養およびPCR、細胞診(細胞分画、CMV封入体)を提出する。クリプトコックス肺炎を疑う場合にはPAS染色の追加も推奨される。

(注) 日本では2つのβ-Dグルカン測定法が存在する。ファンギテック G テストMKⅡ「ニッスイ」が感度が高く当科ではこれを用いている。

写真1

写真2

写真3

写真4

写真5

治療

 治療の第一選択はST合剤であるが、HIV患者では薬剤熱などの有害事象が高率で3週間の治療期間を完遂できるのは自験例では2割程度である。第二選択はPentamidine点滴であるがこれも副作用発現率が高いため、標準投与量より少なめの3mg/kg/日での治療が行われる事が多い。Atovaquoneは最も忍容性が高いが、抗菌活性は低く重症例では推奨されない。さらに食後内服でなければ吸収率が極端に低下する点、半減期が60-70時間と長いため有害事象が発生した場合には中止後も長期に遷延しうる点などにも注意が必要である。治療期間は合計21日間であり、その後は抗HIV治療(ART)により免疫能が回復するまで二次予防を継続する必要がある。
 ARTについては米国DHHSガイドラインでは、PCP治療開始と同時に行うことを推奨しているが、(1) PCP治療薬の副作用頻度が高いこと、(2) 臨床的に改善が見られない時に、PCPの自然経過なのかARTによる免疫再構築症候群(IRIS)が起こっているのか判断が不可能である、という問題点がある。以上を考慮し、IRISの回避を目的としてACCではPCPの治療終了後2-3週経過してからARTを導入することが多い。ただし、重度免疫不全例やPCPに関連した気胸合併例など早期の免疫能回復が望ましいと判断される例では、IRISに注意しながら個別にART導入時期を判断している。

(治療)
1)第一選択
  ST合剤 9-12錠(TMPで15mg/kg相当), 分3経口
 バクトラミン注 3-4A+ 5%ブドウ糖500mL x3回点滴(経口投与不能の場合)
 (添付文書には記載がないが生理食塩水でも溶解可能。病態により使い分けて良い。)
2)第二選択(第一選択が使用できない場合)
 Pentamidine 3mg/kg +5%ブドウ糖250mL x1回(1時間以上かけて点滴)
3)第三選択(第一 and/or 第二選択が使用できない場合)
 Atovaquone 1500mg(2包)、分経口(必ず食後内服)
以上を組み合わせて合計21日間治療し、引き続き維持治療を行う。

* AaO2<70 mmHgあるいはA-aDO2≧35mmHgの重症例ではステロイドを併用する。
ACCでは過度の免疫抑制を回避するため、呼吸状態を見ながらガイドラインよりも少量かつ短期間で終了するプロトコールとしている1)(括弧内は米国DHHSガイドライン推奨)
プレドニン 60-80(80)mg/日 3-5日(5日)
→プレドニン 30-40(40)mg/日 3-5日(5日)
→プレドニン 15-20(20)mg/日 3-5日(11日)
* 超重症例では治療開始時にメチルプレドニゾロン0.5-1.0g/day x 3日も考慮する。
* CMVの再活性化に注意→CMV抗原血症を適宜評価。

(維持治療:二次予防)
ARTによってCD4が200/µL以上となるまでは維持治療が必要。
① ST合剤 1錠/日(トキソプラズマ抗体陽性の場合には2錠/日)
② Pentamidine 300mg+ワッサー40ml吸入
 * 気道刺激性が強いので事前に気管支拡張薬(ベネトリン0.5mlなど)を吸入。
 * 個室内で超音波ネブライザーで体位を変えながら吸入すること
③ Dapsone 100mg/日(保険適用なし)
④ Atovaquone 1500mg 分1 食後

(発症予防:一次予防)
CD4<200/µLで開始する。方法は二次予防に準ずる。

文献

1) Watanabe T, Yasuoka A, Tanuma J. et al. Serum (1-->3) beta-D-glucan as a noninvasive adjunct marker for the diagnosis of Pneumocystis pneumonia in patients with AIDS. Clin Infect Dis. 2009 Oct 1;49(7):1128-31

2) Shibata S, Nishijima T, Aoki T, et al. A 21-Day of Adjunctive Corticosteroid Use May Not Be Necessary for HIV-1-Infected Pneumocystis Pneumonia with Moderate and Severe Disease.PLoS One. 2015 Sep 22;10(9):e0138926