ACC診療ハンドブック

日和見疾患の診断・治療

結核

Last updated: 2016-04-28

病原体

 Mycobacterium tuberculosis の空気感染による。非HIV感染者にくらべHIV感染者はCD4数に関わらず結核を発症するリスクが高い。さらにHIVと結核の合併は相互に病状を進行させる。

臨床像

  CD4>350/µLでは非HIV患者と同様の臨床像をしめすことが多い(肺限局が多く、胸部X線で上肺野の散布・空洞陰影)。CD4<200/µLでは典型的な肺結核所見は認めにくくなり、縦隔リンパ節腫脹、粟粒結核、肺外結核が多くみられる(写真1)。更にCD4<50/µLでは胸膜炎、心外膜炎、髄膜炎を発症することもある。HIV感染者の結核では、細胞性免疫不全を反映し、生検病理組織における乾酪性肉芽腫などの所見は見られないことが多い。

写真1 25 歳、男性CD4 41/µL

ニューモシスチス肺炎でAIDS 発症し治療終了後に発熱と左季肋部痛を主訴に 脾門部結核を発症。 ツベルクリン反応、喀痰の塗沫・抗酸菌培養全て陰性。

 

診断

a)喀痰検査・・・チール・ニールセン染色、オーラミン染色で塗抹陽性であっても、CD4<50/µLなどの重度免疫不全症例では非結核性抗酸菌症の可能性もあるため、慌てて結核病棟へ隔離してはならない。
 PCRでM. tuberculosis であることが確認されるか、培養陽性をもって確定診断とするのが原則である。
HIV合併結核では耐性結核のリスクが高いことが知られているため、治療前に抗結核剤の感受性検査を提出しておくことが重要である。
b)胸部X線・・・免疫不全の進行に伴い非典型所見(肺野の浸潤影、著明な縦隔リンパ節腫大など)を呈する。胸部単純X線では所見に乏しい排菌陽性例も経験されるため、臨床的に疑われる場合には胸部CT撮影も積極的に検討する。
c)IGRAs(QFT, T-SPOT)・・・QFTやT-SPOTなどのIGRAsでの陽性結果は「結核既感染」を示すものであり、活動性結核の発症を示すものではない。
 よって本検査で陽性となった場合には、胸部CT検査などにより活動性結核の除外を行った上で、潜伏感染と診断した場合には、INHによる予防内服の適応を判断することになる。
 IGRAs(QFT, T-SPOT)は、結核菌の特異抗原刺激によるIFN-γ産生を測定するため、当初は結核潜伏感染の診断において、特異度の高い検査と想定されていた。しかし、最近になって、本検査での偽陽性率の高さを指摘する報告が相次いでいる。
 日本におけるHIV合併結核はそれほど多くないため、IGRAsで陽性となった場合には反復して検査を行い、年齢や渡航歴、曝露歴と合わせ、慎重に臨床的判断を行う必要があると考えられる。

治療

● 非HIV患者のregimenに準ずる。INH300mg+RFP450mg+EB750mg(+最初の2ヶ月間PZA1.2〜1.5g )/日を6〜9ヶ月間。肺外結核等ではより長期の治療も検討する。耐性検査により適宜処方を調整する。ARTを開始する場合、リファマイシン系薬剤と抗HIV薬には強い相互作用があるため、用量を調整する必要がある(「part1.参考図表 抗酸菌治療薬と抗HIV薬併用時の投与法」を参照)。
● ARTの開始時期については、一般的には抗結核治療を先行し、その後にARTを開始することが多い。これは、多数の薬剤を同時に開始することで副作用が出現した場合、原因薬剤の判別が困難となることが予想されることと、ART開始後の免疫再構築症候群(IRIS)(写真2)のリスクが高いためである。
 途上国で行われた3つのRCTの結果から、免疫不全進行例においてART開始が遅れると死亡率が上昇する可能性が得られたため、2013年改訂の米国CDCガイドラインでは結核性髄膜炎を除き、CD4<50/µLでは抗結核治療開始後2週間以内のART導入、またそれ以外では結核治療開始後2-3ヶ月以内のART導入が推奨されている。
 IRISは持続する発熱や新たに出現するリンパ節腫脹、あるいはもともとあった病変の増悪という形で起こる。もっとも重要な鑑別疾患は薬剤熱であり、発熱のみの場合、鑑別は難しい場合もあり、発疹の有無や免疫反応の増強を示すリンパ節増大などの所見を参考に判断する。一方、ART導入から臨床症状悪化までの期間はIRISを疑う最も重要な手がかりとなりうる。ARTと関連したIRISはART開始2週間前後、多くは1ヶ月以内に起こることが多く、反応は激烈でしばしばステロイド治療等の介入なしでは治療の続行が不可能である。症状が激烈な症例ではARTの中断も検討する必要がある。
 IRISであると判断された場合、経験上は短期のステロイド治療が有用で、ART継続が可能であるが、適切な使用量、期間に関する検討は現時点では存在しない。当科ではプレドニンで0.5-1mg/kg/dayよりスタートし、以後は3-5日ずつ熱型をみながら漸減することが多い。多くは2週間以内にステロイドを中止できるが、症例毎に反応を見ながら投与期間を決定することが必要である。

写真2 48 歳、男性

1998 年6 月、ニューモシスチス肺炎でAIDS を発症。ST 合剤による3週間の治療後にARTを開始。8 月下旬に右S6 に結節陰出現し、気管支内視鏡検査にて結核と診断されたため、HREZ による抗結核療法を開始した(CD4 91/µL)。9 月下旬より再び発熱、さらに10 月には 肺門縦隔リンパ節腫脹も認め(CD4 202/µL)、ART による免疫再構築症候群と診断した。症状が強かったためARTの一時中断を要した。