ACC診療ハンドブック

日和見疾患の診断・治療

赤痢アメーバ症

Last updated: 2016-06-01

病原体

 ヒトに対して病原性をもつアメーバで最も一般的なのは、Entamoeba histolytica である。嚢子に汚染された食物・水を経口摂取して感染するため、元来、開発途上国から帰国した者に多く、輸入感染症として知られていた。しかし、近年、膣性交やAnal sexと比べoral-anal contact が特にアメーバ症のリスクファクターであるが報告されている(Chien-Ching H. et al. Am J Trop Med Hyg 2011)。そのため、性風俗で働く女性や男性同性間で日本国内発症による流行がみられ、性感染として症例数が激増している(IASR Vol. 35 p. 223-224: 2014年9月号)。

病態・臨床像

 アメーバ嚢子(図1)は、経口的に感染した後、小腸で栄養体(図2)に変化し、大腸粘膜組織へ到達・組織内へ侵入する。赤痢アメーバ症は、感染者のうち90%は不顕性感染に終わり、残りの10%のみが臨床症状を呈する。
 下部大腸(直腸やS状結腸)に病巣を持つ場合、発熱・下痢・下血(イチゴゼリー状粘血便)など成書にあるような赤痢症状を呈するものの、上部大腸(回盲部や上行結腸など)に病巣を持つ場合には、初期の臨床症状に乏しく内視鏡検査で偶然に発見されることがある。また、腸管病変が進行すると腸穿孔を来し虫垂炎と間違われるような症状を呈する場合や、血行性に播種すると腸管外アメーバ症(多くは肝膿瘍)として発症することもある。この場合には、消化器症状がなく、発熱のみの臨床症状を呈する場合や、胸膜炎を合併した場合には発熱と咳を主訴に来院する場合もあり、診断が遅れることもある。

図1. アメーバシスト(ヨード染色)

 

図2. 栄養型(直接検鏡)

診断

 途上国への渡航歴やoral-anal contactを含む性的接触既往があり、持続する発熱や2週間以上持続する下痢、下血などがあった場合には、積極的に疑い鑑別を進める。腸炎については、便検査を行い嚢子または栄養体を検出することで確定診断となる。しかし、栄養体は排便後1時間程度で死滅するため速やかな顕微鏡検査と熟練した検査技術が必要であるため、見逃される場合も多い。便検査で診断がつかない場合には、内視鏡検査を行い、タコイボ様隆起病変を確認し生検で確定診断を行う(HE染色では見逃されることがあり腸組織とアメーバを染め分けられるPAS染色を推奨する)。肝膿瘍に対しては、腹部超音波検査や腹部CT検査で巨大な膿瘍(7割は単発性)を検出できる(図3)。細菌性肝膿瘍との鑑別のため膿瘍穿刺を行う場合もあるが、全身状態が安定しており、アメーバ感染のリスクが特に高い症例ではメトロニダゾール投与による治療的診断を行う場合もある。また、アメーバ抗体検査は保険認可された検査項目であり、補助的診断として有用であり、国内で使用されているIF法(immuno-fluorescence)は感度89%・特異度87%と報告されている(Nagata N. et al. Diagn Microbiol Infect Dis 2012)。ただし、抗体陽性は治療後も数年持続するため既感染との区別はつかず、また感染後経過の短い症例では抗体が陽転化しない場合もあるため抗体陰性の場合も慎重な判断が必要である。

図3. アメーバ性肝膿瘍(腹部造影CT)

治療

 治療薬には、組織内に侵入した栄養体に作用するものと、主に腸管内の嚢子に作用するものと2種類あり、臨床像に応じて使い分ける。栄養体による第1選択の治療薬は、メトロニダゾールである。腸炎または肝膿瘍でもメトロニダゾールが非常に有効である。経口摂取可能であれば、メトロニダゾール(250mg)6-9T/3×を10日〜14日間の治療を行う。腸穿孔などで内服不能な重症例は、メトロニダゾール点滴(500mg)1500-2000mg/日 6-8時間毎の投与を行うこともある。副作用でメトロニダゾールが使用できない場合は、アメーバ症に対して保険適用外であるがチニダゾール 1200mg/日 7日間が代替薬としてあげられる(2016年4月時点)。
 肝膿瘍に対してのドレナージは、肝外(胸腔・心膜・腹腔内など)へ穿破・波及している場合には治療薬が十分届かない可能性があるため積極的に考慮する。肝表面に近い膿瘍で切迫破裂の場合は穿刺・ドレナージを考慮しても良いが、通常は大きな膿瘍であってもドレナージの必要はなく、メトロニダゾール投与のみで治癒可能であり、投与期間も発熱などの症状が速やかに軽快する場合には10日間で十分であり、膿瘍消失まで投与延長する必要はない。メトロニダゾール投与終了後に嚢子駆除目的に、腸管作用型の薬剤であるパロモマイシンを投与することが標準的とされている。一方で、再発予防のために嚢子除去が必要かどうかについては詳しい検討がなされておらず、当院のデータではシスト駆除の有無にかかわらず、5年間の経過フォローでの累積再発率は15%程度であり、再発例の多くは再感染している可能性が高いと考えられた(Watanabe et al. PLoS Negl Trop Dis 2011)ため、赤痢アメーバ症を発症した患者には、oral-anal contact を避けるように指導することが、再発を防ぐためにはより重要である。嚢子・栄養体は病原性のないEntamoeba dispar との鑑別が非常に難しいため、無症候例では治療適応を判断するのが難しい。しかし、日本の男性同性愛者間で流行しているアメーバ症は、ほとんどがEntamoeba histolytica であり、海外渡航歴がない男性の便中に嚢子・栄養体が検出された場合は、積極的に治療介入するのが適当と思われる。