ACC診療ハンドブック

日和見疾患の診断・治療

梅毒

Last updated: 2018-03-18

臨床像

 梅毒は、HIV患者において最も頻度の高い性感染症のひとつである。教科書的には感染から約3週間の潜伏期の後、感染局所に初期硬結や硬性下疳を生じる第1期梅毒を発症し、さらに4-10週の潜伏期の後の梅毒性バラ疹など皮膚症状(写真1, 2)を呈する第2期梅毒を経て、無症状の潜伏梅毒、そしてゴム腫、心血管梅毒などを呈する晩期梅毒と進行していく(図1)。一方で、HIV 感染者における梅毒ではより進行が早く非典型例が多い点が特徴である。例えば神経梅毒は早期神経梅毒(脳神経炎、耳もしくは眼梅毒など)としての発症がしばしば見られる。当科では第3期梅毒であるゴム腫が感染後5ヶ月以内で発症した例も経験している。ゴム種(写真3)および梅毒性強膜炎(写真4)の所見を示す。


図1 梅毒の自然経過 (JAMA 2003, 290(11), 15101514)


写真1


写真2


写真3


写真4

診断

 血清学的に診断される。HIV感染者では既感染により梅毒血清検査がすでに陽性である例が多いため、非トレポネーマ検査(RPRなど)およびトレポネーマ検査(TPHAなど)のbaselineを把握しておき、梅毒発症を疑った場合には、これらの定量検査を行って、抗体価の有意な上昇(4倍以上)を持って確定診断とする。なお、多くの施設で非トレポネーマ検査の各種自動化法への切り替えが進んでいるのが現状であるが、異なる測定法間の値の相関性はあまり良くない事が分かっており、抗体価を比較する場合にはこの点に注意が必要である。
 HIV 感染者ではtiterが高すぎる事による非トレポネーマ検査(RPRなど)の偽陰性(前地帯現象)が知られているため、定性検査では梅毒を見逃す可能性がある点にも留意すべきである。神経梅毒の診断は、血清検査による梅毒診断、神経梅毒を疑う臨床症状、そして髄液検査異常(細胞数>10 /µL、蛋白>50 mg/dL、もしくは髄液中VDRL(日本で実施できないため当科では髄液RPRで代用)の上昇)によって総合的に行う。髄液FTA-ABSは特異度は低いが感度が非常に高いため、陰性の場合には神経梅毒を除外できると考えられている。
 最近の梅毒の急増に伴い、HIV 患者の眼梅毒の発症が増加している印象がある。ACCで経験した20例30眼の眼梅毒の検討では、発症から4週以内に治療を開始できるかどうかが視力予後と大きく関連していた1)

治療

 治療は、早期梅毒(感染後1年以内:第1期・第2期梅毒、早期潜伏梅毒を含む)、後期梅毒(感染後1年以上:罹病期間不明の潜伏梅毒、後期潜伏梅毒を含む)あるいは神経梅毒(眼梅毒を含む)かを判断し、治療法を決定する。早期梅毒の場合は治療後6ヶ月から1年以内、後期梅毒の場合には1-2年以内に非トレポネーマ検査(RPRなど)が治療前の4分の1以下へ低下しない場合には、治療失敗の可能性を考える必要がある。ただし、HIV患者では治療成功例でも抗体価の低下が非常に遅いserofast reactionの率が高いことも知られており、治療効果判定の際には注意を要する。逆に、治療後に抗体価が上昇した場合には再感染の可能性を考える。
 日本では筋注用ペニシリンが使用できないため、当科では経口amoxicillinの大量短期での治療を行っている。これにより、早期梅毒で97.5%(194/199)、後期梅毒90.8%(79/87)と良好な治療成功率を得ている(Clin Infect Dis 2015, 61(2), 177183)2)

早期梅毒:amoxicillin 3g分3 + probenecid 750mg分3 14日間
●ペニシリンアレルギーの場合 doxycycline 200mg分2 14-28日間
後期梅毒:amoxicillin 3g分3 + probenecid 750mg分3 28日間
●ペニシリンアレルギーの場合 doxycycline 200mg分2 28日間
神経梅毒・眼梅毒:ベンジルペニシリンカリウム(ペニシリンG) 2400万単位/日を持続静注もしくは4-6分割点滴静注 10-14日間
●ペニシリンアレルギーの場合 ceftriaxone 2g1日1回 10-14日間

 早期梅毒症例で、治療開始直後のJarisch-Herxheimer現象(初回投与後2時間前後より始まる急激な発熱や発疹)の頻度が高いことが知られる。服薬の自己中断につながるため、治療開始前にその可能性と解熱剤等の対症療法のみで1-2日以内に回復することを、治療前に患者に十分説明しておくことが望ましい。HIV患者における上記治療法でのペニシリンアレルギーは1割程度で経験され比較的頻度が高い。多くは投与開始後10-14日頃に発熱や発疹で発症する。梅毒治療歴のある患者ですでにアレルギーを発症した既往のある患者では、ペニシリンの再投与は行ってはならない。投与前にアレルギー歴に関する問診を行うことが重要である。

文献
  1. Tsuboi M, Nishijima T, Yashiro S, et al. Prognosis of ocular syphilis in patients infected with HIV in the antiretroviral therapy era. Sex Transm Infect. 2016 Dec;92(8):605-610
  2. Tanizaki R, Nishijima T, Aoki T, et al. High-dose oral amoxicillin plus probenecid is highly effective for syphilis in patients with HIV infection. Clin Infect Dis. 2015 Jul 15;61(2):177-83