ACC診療ハンドブック

日和見疾患の診断・治療

急性HIV感染症

Last updated: 2016-06-01

概念

 HIVに初感染した症例の40〜60%で、2〜6週間後に発熱、リンパ節腫脹、咽頭痛、多発関節痛といったインフルエンザ様症状あるいは伝染性単核球症候群を呈する。非特異的な症状のため、本症例の多くが見逃されている可能性があるが、以下の観点からこの時期に診断する臨床的意義は非常に大きい。
 ①感染初期に診断することで、適切な時期に抗HIV療法を導入できる。
 ②他者への感染伝播を防止できる。

臨床像

 非特異的な症状(表1)が主体となるが、診断の手がかりとなる症状や患者背景を以下に示す。
 ①経過中、皮疹を呈する症例が比較的多い(写真1)。皮疹の性状は多彩であり、出現時期も一過性であったり、持続的に増悪寛解を繰り返す例もある。
 ②頻度は低いが、口腔内白苔や無菌性髄膜炎、顔面神経麻痺といった神経病変の併発。
 ③問診で、感染リスク行為(数週以内の性的接触、静脈麻薬使用など)が明らかである場合には、急性HIV感染を積極的に疑うべきである。当院での検討では何らかの性感染症の既往歴がある割合が多かった(表2)。性感染症の既往歴から急性HIV感染症の可能性を考慮することも有用である。

表1 急性HIV感染症の臨床所見と症状 
  Ann Intern Med 2002;137:381

 

表2 国立国際医療センター(97~07年)で経験した急性HIV感染症の患者背景

 

(写真1:)

左:経過中に一過性に出現した皮疹
右:増悪寛解を繰り返す蕁麻疹様皮疹を呈した症例

診断

 重要なのはスクリーニング検査が陰性となり得る点である。抗原・抗体検査である第四世代検査でも感度は90%程度とされている。急性HIV感染症が疑れる場合はスクリーニング検査陰性でもHIV-RNA(PCR法)の提出が望ましい。
注:急性HIV感染症の診断は以下のパターンがある。
① スクリーニング検査陰性、かつHIV-RNA陽性
② スクリーニング検査陰性から陽性への変化(確認検査で陽性)
③ スクリーニング検査陽性、かつ確認検査陰性陰性保留から確認陽性へ変化
④ スクリーニング検査陽性かつ確認検査陰性または保留、かつHIV-RNA陽性
⑤ スクリーニング検査陽性かつ確認検査陽性だが、経過中にwestern blotのバンドが増加
⑥ 確認検査は陽性だが、最近(6ヶ月以内)のスクリーニング検査が陰性だったことが明らか
 急性感染期には、野生株とともに耐性ウイルスが重複感染した可能性も考慮し、治療の開始の有無にかかわらず、薬剤耐性検査を提出することが推奨される。感染6ヶ月以上が経過した慢性期では、耐性ウイルスの検出感度は低下する。

治療

 急性HIV感染症と診断された場合、抗HIV療法開始が推奨されている(AI)。しかし、現在の日本の医療費助成制度では4週間以上の間隔をあけた2回の採血が必要なため、急性感染期に治療を開始することは難しい。治療開始の長所は「ウイルス学的セットポイントを低くすることで予後が改善する可能性がある」ことや、「高ウイルス量を低下させることで他者にHIVを伝播させる可能性を低くする」ことなどがあげられる。短所としては、短期および長期的な視点からの薬剤の有害事象の可能性や、長期内服に伴うアドヒアランス不良、そしてそれによる薬剤耐性化のリスク上昇があげられる。これらの長所と短所を患者が十分に理解し、医療者と相談した上で、患者毎に治療開始時期を判断することになる。